「先生、なんでこんな時間に駅前にいたの?」
「大人には色々事情があるんだよ」
「彼女に会ってた?」
「そんなんじゃねぇよ。DVD返しに行ってただけ」
「こんな時間に?あ、もしかしていかがわしいやつだ」
「普通に映画だよ!今日までの期限なの忘れてたの。
お前なぁ…俺のことどんな風に思ってんだよ」
「えへへ」
部屋と先生の温かさに頭がのぼせたみたいに、思考も口調もとろんとしてくる。
先生の肩に頭を預けたまま上目遣いに先生を見ると、先生と眼が合った。
視線が交錯する。
スモーキークォーツのような透き通る瞳が、こんなに近い。
(綺麗…)
ふと先生の艶やかな唇が引き締まる。
きゅっと真面目な表情。
それでいてどこか甘い…
鳶色が影を落とす甘い瞳に吸い寄せられるように、私は顎を上げる。
「そんな顔で、見るなって…」
先生が独り言みたいに小さく小さく呟くのが聞こえた。
肩に回された先生の腕に少しだけ力が入り、先生の整った顔が私に近付く。
すぐ傍に先生の息遣いを感じる。
本当にすぐ傍。
触れるか触れないかくらいの…
間近にある甘い瞳に捉えられ、抗えず私はそっと瞳を閉じる。



