星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

 先生の家は昼間歩き回った住宅街の中にあった。

 ただそれは他人の家の庭のような小道を進んだ袋小路にあって、到底普通に見つかるような所ではなかった。

 更に、石造りの壁に曲線が美しいアイアンの手すりや柵が取り付けてある様は瀟洒を通り過ぎてヨーロッパのアンティークのようでとてもアパートにも見えなかったし、暗いのではっきりとは分からないけど、古さもちょっとどころではなさそうな外観。
 そもそも聞くと見るではイメージが違いすぎて、目印が目印にもなってなかった。


(そりゃ見つからないよね…)


「適当に座って。寒かったろ?コーヒー飲むか?」


 外観のアンティーク感とはうってかわって綺麗にリフォームされた部屋の中に入ると、先生が小さなキッチンでお湯を沸かす。


「ありがとう、ございます…」


 私は脱いだ上着をフリンジの付いたスウェットワンピースの膝に掛けてベッド脇の床にぺたんと座った。

 先生の部屋は、テキストやプリントでいっぱいになったローテーブルを除いては、綺麗に片付いている。

 パソコンがひとつ置かれただけのデスクと椅子。外国語関連の本が詰まった本棚。シンプルなカバーの掛かったベッド。
 それと、初めて逢った日に見たキャリーバッグが隅にあった。


 先生はキッチンから戻ってくると、

「冷えるからこれ敷けよ」

とブラックウォッチのキルトのカバーが掛かったクッションを私に渡してくれて、自分も隣に座った。


「なんだってお前家出なんか…」

「家出じゃない。ストライキ」

「変わんねぇって。余計心象悪いと思わなかったの?」

「……」


 俯いた私の頭にぽんと先生の掌が置かれる。


「疲れたろ?少し休め」

「ううん…大丈夫」


 口ではそう答えるけれど、正直心身共に疲弊しきっていた。昼からこの時間までほとんど歩き回っていたのだから。

 私は先生の肩に頭をもたれた。


「…気持ち良い」


 先生は頭から手を離し、その手で私の肩を抱いてくれる。
 どこか懐かしい安息感に溜め息が漏れる。