「大変遅い時間に申し訳ございません。私、菊花女学院の教諭で初原と申します。
…はい、お世話になります。
今、文教台駅の前で舞奈さんにお会いしましてお電話させて頂いた次第です。
迎えに来て頂きたいとは思うのですが、」
「先生!私帰らないってば!!」
私が叫ぶと先生が私の手をぐっと掴み、強く握る。
強い、けれどそれはどこか優しく、温かい─
「迎えに来ては頂きたいとは思うのですが、なにぶん今興奮状態でして、来て頂いても大人しく帰れる感じではないと思うんです。
もし良かったら私が舞奈さんと少し話をしてみようと思いますので、後程落ち着いたら改めてご連絡させて頂こうと思うのですが?
…いえ、私の方は問題ありませんので。
…はい、では少しお待ち頂いて、もう一度ご連絡させて頂きます。
はい、失礼致します」
スマホを耳に当てたまま先生が一礼し、電話を切る。
「先生…ありがと…」
視界がまた涙でぼやけた。先生の顔も滲んで見えなくなる。
それでも涙を眼に溜めたまま顔を上げる。先生にその気持ちをすごくすごく伝えたくて。
「そんな顔で見るな…
行くぞ」
「どこに…?」
「俺の家」
「え…」
「未成年の、しかも生徒の南条とこんな時間に会ってるのとかヤバいだろ。さっきの連中に警察呼ぶとか言ったけどぶっちゃけ俺の方が今犯罪者ど真ん中なんだけど?」
そう言って先生は苦笑いする。
「あ…そっか」
「ほら、行くぞ」
先生が私の手を取って花壇から立ち上がる。
私も手を引かれるように立ち上がり、先生に寄り添った。
先生の温もり。夏の日の香り─
それらを全身に感じながら、ただ星だけが見下ろしている人気のない夜中の道をふたり手を繋いで歩いた。
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