「はぁ…」
駅前の花壇の縁に座り、深い溜め息を吐く。
あれから更に数時間。
それらしい建物は見つからず、手近なカフェで少しの食事と休憩を取ったのみで駅から南を散々うろうろし、今に至る。
時計の針はついに午前0時を回ってしまった。
改札口から出てくる人もやがて疎らになり、ついには誰も居なくなった。
しばらくして駅員がシャッターを閉めに出てくる。
(へぇ、毎日こうやって閉めてんだぁ…)
なんてぼんやり思ってみたりするけど、現実はそんな呑気な状態じゃない。
終電が終わり、もう家にも帰れない。
いや、スマホの電源を入れて家に助けを乞えば帰れないこともないけれど、そもそも帰る気もないわけで…
(どうしようかな…)
10月の末の深夜は既に寒い。
ブルゾンのファスナーをきっちり引き上げて襟を立てる。
「こんなとこで何やってんの?」
不意に私の前に人影が立った。
顔を上げると堅気のサラリーマンとは言い難い風貌の男が二人。
「行くとこないの?俺らのとこ来る?」
と男がにやにやして訊いてくる。
「え…」
(怖い…!)
見回すけれど、少し離れた所にコンビニの灯りが見えるのみで、駅前には他に人の姿はない。
「違います…あの…父が迎えに来るの、待ってるだけなんで…」
声を振り絞って適当なことを言う。
「嘘。ずいぶん長いことここ座ってんじゃん?俺らが気付いてないとでも思った?
あ。ていうかもしかして誘われるの待ってた?」
「そんなんじゃ…!」
私が立ち上がると男の一人が私の手を取った。
「行こうよ。ここじゃ寒いでしょ?」
「やめてください!」
手を振りほどこうとするがしっかりと握られていて思うようにならない。
(どうしよう!…先生!先生!!)
怯えた瞳が涙で霞む。
その時不意に
「何してんの?」
声がすると同時に男の手の力がふと緩んだ。
その声は良く知っている声だった。
甘くて爽やかで、心が穏やかになるような、それでいて胸が弾むような声─
声のする方へ顔を上げた。
そこには私が逢いたくて逢いたくて堪らなかった顔があった。
「せんせ…」



