「多分この辺…なはずなんだけどなぁ…」


 土曜日の夕刻。

 私は初めての町を歩いていた。
 日は傾いて少し肌寒い。


(こんなことなら連絡先聞いとけば良かった…)


 春休みに先生に出逢ったターミナル駅から私鉄で1駅の住宅街を私は昼頃から延々歩き回っている。

 ターミナル駅はJR線が東西に走るものと南北に走るものの2路線、それから私鉄が1路線走っている。
 私の自宅は西に2駅、学校は南に2駅行った所で、どちらもJR沿線にあるので、この私鉄に乗ることは滅多にない。


(こんなに無駄に歩かされてんのもお父さんとお母さんが話聞かないせいだし!向こうが折れるまで絶対家には帰らないんだからっ!)


 今朝も朝から進路のことで揉めに揉めた。

 もうこの頭の固い両親に強攻手段に出るしかない!
 私はそう思い詰めて、身の回りのものを旅行用のボストンバッグに詰めて家を飛び出した。
 昼前のことだ。

 家を出た瞬間から他のことは頭になかった。


 先生の所に行こう─


 先生はこの町に一人暮らししていると言っていた。

 駅から南に歩いて10分程で、少し古いけれどアパートにしては瀟洒な造りの建物の1階に住んでいるとも言っていた。


(アパートなのに瀟洒とか、絶対目立つと思ったのに…)


 足を止めて途方に暮れる。
 日暮れが近い。


 溜め息ひとつ、私はバッグを持ち直し、再び歩き出す。

       *   *   *