私の答えに落合さんの表情にぱっと怒りの色が浮かぶ。
 そして、取り巻きの女の子たちと、廊下のあちこちから私たちを遠巻きにちらちらと見ていた野次馬たちからざわめきが漏れる。


「自分のやってること、恥ずかしいと思わないんですか!?」

「……」

「先生に、それも学校の中で色目使って、そこまでして先生と…」


 落合さんが声を荒らげる。
 その声に私たちの存在に今まで気付いてなかった生徒たちも振り返り、ひそひそし出す。

 私はもう一度溜め息を吐いた。


「抱き合った、と言えば色恋しか想像できない貧相な想像力も恥ずかしいと思わない?」


 私は彼女に微笑んだ。

 落合さんが、周りが、みんなさっと顔色が変わる。

 でも正直なところ、この場面でこんな言葉が咄嗟に飛び出し、更に微笑める自分に、他の誰よりも自分が驚いた。


 それから私は静かに息をひとつ吸い込み、続ける。


「私は先生に進路の相談をしていた。その中で私は思うところがいろいろあって、恥ずかしながら泣いてしまった。それを先生がなだめて下さった。
 そういうことは想像できない?」


「先生はそんな後先考えないようなことしません!あなたに騙されたのよ!」


「舞奈!?」

 遅れて来た揺花が渦中にいた私を見つけて駆け寄ろうとするけれど、私はそれを手で制した。


 そして更に食ってかかろうとする落合さんに訊ねた。

「あなた、兄弟は?」

「そんなこと今はどうでもいいです!」

「私はあなたの質問に応えたの。あなたも応えるべきじゃない?」

「…妹がいます」

 彼女が相変わらず素直に、でも面白くなさそうに応える。


「その可愛い妹さんがあなたに相談事をしたとします。妹さんの人生に大きく関わる問題で、彼女の心には耐えられない辛いことです。それを信頼する姉に話すうちに泣けてきてしまった。
 そんな時あなたならどうします?」

「……」

「抱き締めて胸の中で気の済むまで泣かせてあげるかもしれません」

「でも先生は…!」


「先生は私『たち』のことを妹のように思って下さってるわ。
 親身になって話を聞いて下さり、時間を割いて手助けして下さり、時にはそうして包みこんで下さる。そういう方じゃない?

 初原先生が好きなんでしょうけど、そんなことも分からないで先生はこうだなんて決めつけて、私に当たり散らして、そんなの好きって言えるかしら?私は違うと思うの」


「……」