「ねぇ、ほら、ちょっと…」

「あぁ南条…」

「あの人が初原先生の?」

「そうそう。あっ!ちょ、こっち見た!」

「ヤバいヤバいー」


 応接室に呼び出されたあの日以降、通学路や廊下を歩いていると、しばしばこんな会話が聞こえてくるようになった。

 それは知ってる顔ばかりでなく、見ず知らずの下級生からも。


 ちらちらとこちらを見ながらひそひそなされる会話。

 もちろんその内容は─


「彼女、初原先生と付き合ってるんでしょ?」

「美男美女カップルとは思うけど節操ないよねー」

「校内でキスしてたらしいよ!」

「えー!大人しそうな顔してるのにやることえげつないんだぁ」

「相当才女なんだって?先生絶対騙されたんだよー。あーぁ」


 声の主の視線を遮るように、ふと揺花が隣に立つ。


「ごめん…揺花」

「私、はっきり言わないでこそこそ陰で触れて回るこの学校の?ていうか女の子の習性、嫌いなんだ。
 それだけだから、ね?気にしないで」

「…うん、ありがとう」


 揺花がいてくれて救われる。


 こそこそ陰口を叩かれるのが嫌いなのは私も同じ。
 面と向かって言われるのは応戦できるけれど、陰口ではそれもできない。