「南条君」

 ヤマセンががらがら声で優しく言う。

「何か言いにくいことがあるかね?」

「いえ…」


 それでも私が話せずにいるとヤマセンが言った。


「じゃあまず初原先生に訊いてみようか。
 先生、これは事実ですか?」


「はい」


 先生は私と校庭で抱き合ったことをヤマセン達にさらりと認めた。
 先生の真っ直ぐな応えに心臓が騒ぎ、制服のスカーフの結び目をきゅっと掴んだ。


「それはどういう状況でしたか?」

「はい。私が南条さんの進路の相談を受けていました。

 話の中で多分気持ちが昂ったんでしょう。彼女が泣き出してしまったので落ち着かせようと、肩を抱きました」

「ということなんだけどね、南条君、どうですか?」

「…はい。間違いありません」


 私がおずおずと応える。


 そうだ、私にはそんなやましい気持ちがあったとしても、先生はそうじゃない。
 私のためにしてくれたことだ。


 泣き出してしまった私のために、教師として。


「何か無理に、ということは?」

「それはありません!絶対に!!」


 岩瀬が尋ねてきたが、私ははっきり否定した。
 私から先生に飛び込んで行ったことこそあれ、そんなことは決してない。


「特別な関係というのもない、ということで良いですね?」

「はい!」


 私は岩瀬の冷たい眼を見て言い切る。


「分かりました」


 良かった。

 先生にこれ以上迷惑をかけなくて済む…


 が、そう思うも束の間、更に岩瀬は続ける。


「では南条さん。
 どうして初原先生に進路の相談をしたのですか?」


「あ…」


「貴女が相談すべきは村田先生や私であるはずですよ?」