本を受け取った先生は

「さて、午後も頑張るかー」

と伸びをしてから立ち上がる。


(もう行っちゃうんだ…)


 ちょっと寂しい。


 もう少し、少しでいい。


 一緒にいたいな…


 そんなことを思いながら先生の足元を見るともなく見つめていると、

「なぁ、南条。」

不意に先生が私を呼んだ。


 私が顔を上げると私を見下ろしている先生と眼が合って、思わず胸がきゅんと鳴る。


 そんな私に先生がかけた言葉は



「お前さ、明日空いてるか?」



(空いてるか、って…?)


 言われている意味が分からない。


 スケジュールのこと?


 明日は教室解放も休みだから学校には来ない。
 塾も今週の夏期講習は取ってないし、もちろん遊ぶ予定もない。


「明日は、何も…」

「勉強の予定は?」

「特に決まったものは…」


 私はまだなんだかよく分からないままふるふると首を振る。


「よかったらだけどさ、」

 先生はもう一度しゃがんで私の目線に合わせる。

 その瞳はどこか愉しげに輝いていて…



「明日俺と出掛けない?」



(明日俺と出掛けない?って…?)



「明日俺と図書館行かないか?」



(図書館行かないか?って…?)


 思考が止まってしまったみたいにその意味が全く把握できなくて、私はただ瞬きばかりしてきょとんと先生の顔を見つめる。


「くくっ!」

 真昼の木漏れ日を背負った先生は私を見つめ返して可笑しそうに笑った。


     *   *   *