その翌日は金曜日だった。

 私はまたいつもの場所に座って昼食を摂っていた。


(今日は先生、来ないかな…?)


 私がいるのを知ってるなら、逆に言うと私に用がなければ来ない、ということ。

 私はお気に入りの板チョコパンを食べ終え、ギラギラ光るグラウンドを眺めていた。


 会いたければ職員室に会いに行けばいいんだけれど。


(だって用事があるんだから…)


 でも。


 出来ればここで会いたい。


 出来れば…


 二人きりで…


(私、何乙女チックなこと考えてんだろ!)

 一人で思って一人で恥ずかしくなる。


 その時、蝉時雨の中に靴音が聞こえた。


 反射的に振り返ると…


「…先生」


 逢いたい気持ちが、聞こえちゃったのかな?


 なんて、ますます乙女な妄想。

 今日の私はいつもの私らしくない…


「今日も登校?感心感心!」


 先生は言って、なんだか当たり前のように私の隣に座る。


「先生、今日は?」


 私に逢いに来た、って…言って欲しい。


 絶対ないけど…


「言ってんじゃん。俺も虫干しが趣味だって。黴生えたくないもんな」

 先生がふふっと可愛く笑う。


 あぁ、やっぱり可愛いな。


 好きだな、この顔…


 そんなことを思って胸を踊らせていると、大事なことを忘れそうになる。


「あっ、そうそう!先生、これ」


 私はバッグの中から昨日の本を取り出し、先生に差し出した。


「え?もしかして、もう読んだの?」

「はい」

「なんだ、ゆっくりで良かったのに」

「先生が附箋張ったり線引いたりしててくれたし、すぐ読めちゃったよ」

「何か気になるとことかあったか?」

「幾つか。考古学者のとことか、あと、こっちも…」

ページをパラパラと捲ってみせる。


「そうか」


 先生は少しだけ私の方に顔を寄せて本を覗き込んだ。

 きめの細かい綺麗な頬と長い睫毛に縁取られた瞳が不意に目の前に現れる。


(ち…近いよ…!)


 先生からしたらきっとなんでもないことなのに、私の心臓は跳ね上がってしまう。


 私は胸のドキドキが止まらないまま先生と本の内容について少しだけ話し、それから改めてお礼を言って先生に本を渡した。