先生の家の最寄り駅で電車を降りると、駅前のスーパーに立ち寄って、食品売り場で材料を買うことにした。


「何がいいかなぁ」

 野菜売り場、魚売り場と眺めながら考える。


(先生っていつも何食べてるんだろう?)

 そう言えば私、そういうこと意外と知らないんだ。
 先生のことこんなに好きで、ホントはいつでも一緒にいたいくせに、でも肝心なことは案外知らなかったりする。

 魚の並ぶ冷蔵ケースを覗く先生の横顔をじっと見上げる。


「ねぇ、これ透き通って見えない?石川県産のスルメイカ」

 虹色に煌めくイカのパックを手に先生が私の方に顔を向けた。不意に至近距離で眼が合ってしまってどぎまぎする。先生はそんな私をくすっと笑う。


「何見てんの?」

「べ…別に」

 無意識にイカのパックを受け取る。


(あ、そうだ。ペスカトーレにしよう)


 そうだね。
 これからもこうやって先生の好きなもの、少しずつ少しずつ知っていこう─


 スパゲッティーやカットトマトの缶詰、にんにくなんかを買って、先生の家へと向かう。

 夕空の下、ふたり手を繋いで辿る家路は幸せで、いつかお互い歳を取ったら、毎日をこんな風に過ごせたらいいなと、願わずにはいられなかった。

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