「う、ん…じゃあそんなんで良ければ」

「楽しみだな」


 何作ろうかな?
 よく作るのはドライカレーやシンガポールチキンライスだけど、先生はそういうの食べるかなぁ。この間夜璃子さんが作ってくれたサンデーローストもいいけど、オーブンがないかもしれないし。


「いつ作ろうか?」

「今日じゃ駄目?」

「えっ!今日?」

「来るんでしょ?うち」

「う…うん…」



『…予定より1日早くとか、帰れない?』

 ゴールデンウィークに帰省すると電話で先生に話した時、先生がそう言った。「舞奈と少しでも早く逢いたいから」って。

 私も先生に少しでも早く逢いたい。
 少しでも長く逢いたい。
 少しでもたくさん一緒にいたい─


『じゃあ…1日早く帰る』


 1日早まったことは両親には言わなかった。

 私は悪い娘かな…?



「スーパー寄って帰ろうか」

「…うん」

 先生が繋いだ手を引き寄せた。
 在来線ホームへ上がる階段を、先生は私を気遣ってくれるようにゆっくりと上る。

 傾きはじめた太陽が眩しくホームを照らしている。
 鮮やかな陽の光を透かす先生の髪が風に揺れた。

 先生と歩いているとよくあることなのだけれど、すれ違う女の子たちがしばしば振り返る。
 私は隣の先生をちらっと覗き見た。


(分かるなぁ…)


「どうしたの?」

 私の視線に気付いて白い歯を覗かせて微笑む先生はやっぱり絵本の王子様みたいだもの。

「…なんでもない」