「……」
「……」
「……」
「あぁ、やっぱり欲しいものあるな、俺」
「!
えっ!なっ、何?」
その一言に思わず食い付く。
「舞奈の手料理食べたい」
「えっ!」
「ほら、毎日自炊してるって言ってたじゃん」
「え、でもそんなご馳走出来るような立派なものは作れないよ?」
「あのキッチンで作れるものだろ?そんな凄いもの期待してないから大丈夫。普通のものでいいの。て言うか普通のものが食べたい」
『あのキッチン』─
私は今、夜璃子さんの住んでいるアパートの一室に住んでいる。ちょうど3月に2階に空室が1軒出て、直ぐに夜璃子さんが押さえてくれたのだ。
私は週の半分くらいは夜璃子さんやアパートの人たちと部屋を往き来して、仲良くさせてもらっている。
因みに春休み中を実家で療養していた夜璃子さんは4月からは元気に大学に復帰している。今までいつ発作が起こるか分からない中で暮らしていたけれど、手術をしたことでその心配もなくなったのだそうだ。
『えっ!舞奈ちゃんて昴さんの彼女なの!?』
『あ…は、はい…まぁ…』
『そうよぉ~。昴がベタ惚れなんだから手ェ出しちゃダメよー』
『夜璃子さんッ!』
『え、あの昴さんがベタ惚れって…』
『優しいのは優しいの分かるけど誰にでも優しいからなー、ベタ惚れってイメージないよな』
『この子に何かあったらアイツ地獄の底からでも駆けつけるわよ。覚悟しときなさい』
『いやもう、既に夜璃子さんが怖くて手出せませんから』
『あは、は…』