星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

 慌てて頭上を見上げると青々とした葉の向こうに夏の太陽が煌めき、私に降り注ぐ。

 それが瞳に滲んで視界が真っ白な光で満ちた。


「眩し…」


 眼を閉じた拍子に涙のひとしずくがキラリと零れて落ちる。


「南条…?」


 続けて落ちそうな涙に耐える私に先生がゆっくりと手を伸ばす。
 そして触れるか触れないかくらいの幽かな手触りで、指の背で私の頬を拭った。

 その瞬間、耐えていた私の涙が堰を切ったように溢れだす。


「ごめん」


 先生が言う。


 私は涙を散らしてかぶりを振る。


 先生のせいじゃないもの…


 そして涙で声にならない声で、まとまらない言葉で先生に伝えようとする。


「今まで誰も、私の夢なんて、考えてくれたことなかったの。


 私…自身でさえも」


 更に涙は溢れ、止まらなくなる。


 諦めて流されて生きればいいと思った。

 嫌になったら生きることをも捨てればいいと思った。


 でも先生は唯一そんな私にも光があることを教えてくれた。


 先生が私の肩に手を回す。

 掌の温度が制服越しに伝わってくる。

 熱い、でも、心地好い。

 その熱で氷が溶け出したかのように、私は押し込められていた感情が溢れ、一人では抱えきれなくなった。


「先生…」


 私は先生の胸の中に崩れ落ちた。


 先生は嗚咽する私の背に手を回し、優しく抱き締めてくれる。


 思いのほか広く、熱く、力強い胸の中に包み込まれる感覚に、今までに感じたこともない大きな安息を感じる。


 このまま時の流れをも塞き止めて、包まれていたい。


 光を探す勇気を充足出来るまで─



 ただ夏の昼下がりの熱い風だけが私たちを撫でていった。


     *   *   *