星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

 茜色の夕陽が射し込む小さな部屋。

 長テーブルの向こう、逆光の窓際にこちらに背を向けて立つ人影ひとつ。


 その後ろ姿の背格好。

 あぁ、知ってる。

 私の好きな…


「……」


 呼び掛けたくても呼べなくて、私はただ見つめる。
 パーカーの背中から伸びるすらりとした脚やさらさらと柔らかな髪の陰影を。


 ねぇ、振り向いてよ。

 逢いたいよ。


 届きそうで届かなくて、もどかしくて切なくて。


『南条』


 声が聞こえた気がしてはっとした瞬間、窓辺の彼が振り返る。


 窓から零れる夕映えが瞳に映り、鳶色の水晶みたいにきらりと光る。



「先生…!」


 自分の声に眼が覚めた。

 茜色の部屋も先生の翳もどこにもなくて、そこはただ冷えきった自分の部屋のベッドの中だった。
 毛布の中でのろのろと起き上がる。枕元の目覚まし時計は朝5時を指していた。


(夢…)


 脳裏に焼き付く夕暮れの英語準備室。
 先生の後ろ姿。振り返りざまの煌めく瞳。

 そのひとつひとつがいやに美しく、現実でないことを思い知らされる。


(なんだ…夢なんだったら声掛けておけば良かったな)


 毛布に包まりながら自嘲する。


 先生…

 夢の中で逢うのなら、ねぇ、許される?


 それなら私、このまま眠り続けていたいよ。永久に目覚めることなく…

           *