その週の放課後。
 冬の星座が空に瞬く頃。


「どう?出来た?」

「うん、出来た」

「じゃあ見せて?」

 先生が私のノートを手に取る。


 今日も英語準備室で先生に勉強を見てもらっている。
 今先生は私の英作文を添削中。


「うん。完璧だね」

「やった!」


 ガッツポーズで喜ぶ私の頭を先生が撫でてくれる。
 英作文の出来以上にこれが嬉しいんだ。


「じゃ今日はこれで終わり。帰ろっか」

「先生も?」

「うん。俺も」

「やった!」


 もう一度喜ぶ私を先生もまた撫でてくれる。


「…可愛いな、お前」

「えっ!」

「いや…何でもない」


 先生は誤魔化すけど、私は聞こえちゃったもん。


「なぁ、南条」

 バッグにノートやペンケースを詰め込む私を先生が呼ぶ。


「ん?何?」

「えーと…
 24日は何か用事ある?」

「え…」


 もしかして…


 クリスマスデートのお誘い…?


 期待に胸が高鳴る。


「あ、英作文のご褒美ってわけじゃないけど、南条頑張ってるから、その…24日なら俺休みだからもし良かったらどうかなと思って」

「空いてる!空いてます!めっちゃ空いてる!!」

「いや、受験生がめっちゃ空いててもどうかと思うけど」


 跳びつかんばかりの勢いの私に先生が苦笑する。


「南条はどこか行きたいとこある?」

「え…」

「あんまり日がないけど、考えといて?」

「うん…」


 行きたいとこ…

 先生とイルミネーション行きたいけど…


「ね、先生?」

「ん?」

「あのね…植物園のイルミネーション、知ってる?」

「植物園?」

「隣の県にね、あるの。すっごい綺麗なんだよ?」

「へぇ」


 興味ないのかつれない返事。
 デスクの上で準備室の鍵を探す先生の横顔を盗み見る。


「あの…私も行ってみたいなー、って思ってて…」

「イルミネーションて言ったら夜でしょ?隣の県じゃちょっと遠いけど、ご両親はいいって言うの?」

「ぅ…」


 だよね…
 やっぱりそこだよね…


「…他の所考える」

「うん。
 あ、あった鍵。さ、帰ろう。」


 先生は掌の中で鍵をちゃりんと鳴らしてドアに向かう。
 私はピンクのマフラーをくるりと巻いてその後を追った。

          *