公園の入り口まで辿り着くと、突然眼の前が陰った。


(!)


 人通りの少ない夜道で大きな影に包まれて、私はひやりとする。


 恐る恐る顔を上げると


「ちゃんと前見て歩けよ」


 それは清瀬くんだった。


「清瀬くん…」

 相手が分かると別の緊張で鼓動が早まる。


 そんな私に気付いてか否か、清瀬くんは冗談めかして言う。

「もしかして変質者だと思った?」

「え、と…」

「思ったのかよ」

「そ、それより清瀬くん、私…」

「話あんだろ?」

「え…」

「塾でなんか聞けねぇだろ?
 お前絶対泣くし」

「!」


 そう言うと清瀬くんは公園に入っていった。

 清瀬くんがブランコの柵に腰を下ろす。
 私はその傍らに立った。


「で?」

 清瀬くんが私を促す。


「あの…昨日はごめんなさい!」

「あぁ。それから?」

「え…」

「もっと大事な話あんでしょ?」

「あ…」


 胸に両手を重ねる。それが小さく震える。


「……

 清瀬くん、私…」

「……」

「……」


 ちゃんと言わなきゃなのに、言葉が出てこない。


 暫しの間の後、とうとう清瀬くんの方が口を開く。


「言うべき時はちゃんと言わなきゃだろ?
 それってホントに大切なヤツをも傷付けてんじゃん」

「!!」

「今日舞奈がそれちゃんと言ってくるの、待ってるヤツいんだろ?」

「清瀬くん…」


 私はひとつ深呼吸する。

 そして…



「清瀬くん…

 私と、別れて下さい」