先生がゆっくりと腕の力を緩め、私の顔を覗き込む。
 私が先生を見上げると、先生は人差し指をそっと私の唇に寄せ、そして静かに口を開く。


「その先は今は言わないで。

 今は教師と生徒でいなきゃならないと思うんだ。

 俺の想いのせいで南条の夢が叶わなかったら、俺は何をしたって償えないから」


 そう言って先生は柔らかく微笑む。

 久しぶりに見た表情。私の好きな先生の顔。



「でもその夢が叶ったら、その時は俺から言うよ。

 南条への想い全部。

 生徒とか妹とか、そんなもので割り切れる想いじゃなくて、一人の男として、一人の女性としての南条への想いを言うよ。

 だから今は、一緒に待とう。春を」


「先生…」


 私も…

 私も先生が

 好き─



 溢れそうになる言葉を飲み込む。

 私のために、私の夢のために、それが叶うまでは想いをしまっておこうとしてくれる先生を困らせてしまわないように。


 だから今は夢を叶えることで私の想いを伝えよう。先生の想いに応えよう。


 先生が私を特別に思ってくれている。

 それだけで私は今充分過ぎるくらい幸福なんだから。


 そして春。

 ひとつ夢が叶ったら…

 その時は

 その時は─



 先生の肩越しに見上げた空には天頂のひとところに小さな星々が集まって、優しく瞬きながら私たちを見下ろしていた。

 それは、動き出したばかりの私たちの恋を未来へと導いているかのように、どこか温かく、愛おしい煌めきに思えた。


 温かくて、愛おしい…

(『誰か』に似てる…)

 私はこっそり微笑む。


 遥か宙から降り注ぐその星たちの名前が実は『プレアデス─昴』というのだということを、私は知らなかったのだけれど─



 私は瞳を閉じてもう一度その身を先生に預ける。

 プレアデスの煌めきに見守られながら─


       *   *   *