今日の顛末を思い起こして眼を伏せた時、俺の向かいでにっしゃんがデリカシーに欠けた発言をする。


「いや、うちのガッコ、マジで可愛い子結構いるよ?
 南条も良いよなぁ。髪綺麗だし、清楚な感じで、いかにもJKと付き合ってんなーて実感しそう」

「…そういう目で見んなって」


 南条をいかがわしい目で見られるのは甚だ忌々しい。

 何せ南条は俺にとって神聖なものであるのだから。


「にっしゃん。腰掛けのお前と違って俺らはそういうの死活問題だから」

 宇都宮先生がたしなめる。


「そう言うミヤさんは神川でしょ?可愛がってんのもろバレっすよ」

 にっしゃんが今度は宇都宮先生に絡む。

 神川とは映研の神川揺花。南条の友人だ。


「何言ってんの、お前。神川は─」


 『神川はただの生徒、そういう関係じゃない』

 俺もにっしゃんもそういう応えを予想していた。



「神川は別格だから」


「は…?」

「何、別格って!?」

 意外な回答に俺は唖然とし、にっしゃんは食い付く。


「神川は俺にとって『理想の娘』像なんだよ」


『理想の娘』?


「俺が神川に始めて逢ったのはアイツが中学に入った時、アイツがまだ12歳だった。
 俺は神川の担任だったんだ。あぁ、その時南条も一緒だったな」

 先生は遠い眼をして言った。


「うちの学校は良いトコのお嬢が多いけど、中でも神川は一目見た瞬間から群を抜いていると思った。
 成金ぽい派手な子たちとは全く一線を画してて、良い教育を受けて大切にされてきた育ちの良さが滲み出ていた」


 礼儀正しく、真面目で、穏やかで、何事にも熱心で。
 決して派手ではなく、かといって暗いわけではなく。
 級友にも優しく公平で、誰からも愛され一目置かれるような。

 容貌の可愛らしさ、根っからの明晰さもさることながら、精神的に美しく優秀で、いつもにこにこしている女の子。

 まるで、風にそよいで揺れる一輪の花のような─


 先生は神川をそう語った。


「出来ればいつまでも成長を見守りたい生徒なんだよ。でももう高3だろ?花嫁の父のような心境だよ、俺は」

「ミヤさん、花嫁の父なったことあるんすか?」

「にっしゃん、混ぜっ返すなよ」

「俺ね、いつか結婚して娘が生まれたら『ユリカ』って名付けたいんだ。『揺れる花』と書いて『揺花』」

「それ、嫁さん嫌がりますよね?」

「にっしゃん!」


 にっしゃんのツッコミもそれを止める俺も気に留めず、先生は幸せそうに微笑む。