それから清瀬くんと私は昨日と同じようにふたり隣り合って歩いた。

 家に向かうのとは別の道を選ぶ。
 言葉もなくのろのろ歩く私に清瀬くんは合わせてくれる。
 家の近所の見慣れた街並み。


「ちょっと待って」

 20分ほど歩き、国道に出る少し手前のドラッグストアを過ぎたところで清瀬くんが言った。

 それから煌々と明るい自動販売機に向かい、

「何がいい?」

と私を振り返る。


「え、いいよ私は」

「別にこんなんでお前の気ぃ惹こうとか思ってないから遠慮すんな」

「そんな意味じゃ…!」

「何でもいい?」

「…うん」


 清瀬くんはしばらく自販機を眺めてから、あったかいロイヤルミルクティーの缶を買って手渡してくれた。

 清瀬くんはスポーツドリンクを買い、

「こっち」

と私を促して国道の方へ歩く。


 国道の角を曲がると直ぐにバス停があり、清瀬くんはそのベンチに座った。

 清瀬くんが自分の隣を叩く。
 私は清瀬くんの隣に腰を下ろした。


 清瀬くんがスポーツドリンクの蓋をカチッと開けて煽る。

 私は瞳を閉じてミルクティーの缶を瞼に当てた。泣いて火照った瞼に温かさが心地よい。


「何があったか知らないけどさ、」


 清瀬くんの声に眼を開ける。

 ひっきりなしに国道を走る車のライトを見遣りながら清瀬くんは言う。


「泣きたい時は泣けばいいよ」

「!」

「俺邪魔?」

「…ううん」

「じゃあ傍にいるから。
 大丈夫。舞奈は間違ってねぇよ」

 清瀬くんが薄く微笑む。


 優しい微笑み。

 先生とはまた違った…


『当たり前だろ。

 教え子好きじゃない教師とかダメでしょ?』


『良かった』


 一度は止まった涙がまた込み上げる。


 私がどんなに好きでも、先生にとって私は生徒で。

 それでいいと思っていたはずなのに、現実に突き付けられるとそれはやっぱり切なく苦しくて。


 一筋の涙が頬を伝うと、そこからは次から次からと止めどなく流れ落ちてゆく。