星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」


「!」


 逃れた南条の手が俺の左腕を掴む。


「南条?」


 背伸びした南条が俺の横顔に囁く。



「そんなこと気にしないで。不可抗力なんてよくあることじゃん。気にしてたらこの仕事やってけないよ?」


「!!」


 咄嗟に南条に眼を向ける。
 至近距離で交わる視線。

 切れ長の潤む瞳。
 きりりと大人びた彼女の表情。
 元より綺麗な彼女の容貌が、いっそう大人の女性の美しさを醸して見えた。


「南条…?」

 彼女の名を口にする声が掠れる。


「ね?」


 ふわりと微笑んで俺から離れる南条を、俺は無意識にその左肩を掴んで引き寄せていた。



『そんなこと気にしないで。不可抗力なんてよくあることじゃん。気にしてたらこの仕事やってけないよ?』─


 ずっと気にしてた。
 これでいいんだろうか?って。

 小さな失敗をする度に落ち込んでた。
 こんなんじゃダメだ、って。


 頑張っても頑張ってもその評価は『先生可愛い~』で、この仕事は俺に向いてないんだと思ってた。
 いや、今でも思ってる。


 でも。


 頑張ってる中での失敗は不可抗力で、どうにもならないものは気にしてもしょうがないわけで。

 気にしてたら前に進めないわけで。

 だったら気にしてる暇があったら前に進むことを考えた方がいいわけで─


 彼女の微笑みが全てを許してくれているように、その時の俺には見えた。


 俺を許し、その全てを包み込んで安息を与えてくれる神のようだと思った。


 彼女を引き寄せ、抱き締めそうになる。


 否。


 俺は逆に抱き締められたかったんだと思う。


 神の御胸に抱かれるように、全ての悩み苦しみを許されて、守られていたいと願ったんだと思う。


 今にも叫び出して泣き出してしまいそうだった。

 胸の中で重く澱んだ何かが渦巻き膨らんで、張り裂けそうなのを、全て彼女に吐き出してしまいそうだった。



「せんせ…」


 呟くように俺を呼ぶ甘く、それでいて不安げな声に脳が痺れ、理性の堰が決壊する。


 いや、する瞬間だった。


「燃えるゴミの袋どこー?」

 不意に誰かの声が近付き、慌てて離れる。


「…南条、早く冷やしとけ。保冷剤持ってくるから」

「…はい」


 流し場を後にする。


(…俺…何やってんだろう)


まだ夢うつつのように痺れている頭を振った。

       *   *   *