「先生、舞奈はどうですか?志望校に入れそうな感じなんですか?」

「私は英語しか見ていないので全体的なことは言えませんが、充分手が届くところにあると思います」

「そうですか」

「舞奈さんは非常に優秀で、しかも熱心で飲み込みが早い。いつも私のところに質問に来てくれますが、素晴らしいと思っています」

「へぇ…」

 兄が眼を見張って私を見る。


「それに優秀なばかりでなく、とても思慮深く優しいところがありますし、素直で可愛らしい…」

「先生!褒め過ぎ!!」

 私は恥ずかしくなって先生の袖を引く。


「えっ?あ…ごめん」

 先生が引き攣った笑いを浮かべる。


 でも、最愛の妹を褒めちぎられた兄はきっと誇らしいに違いない。


(って、お兄ちゃんも苦笑いしてるよ…)


「初原先生、でしたね?」

「はい」

「大事な妹です。よろしくお願いします」

 兄が先生に頭を下げる。


「はい。責任持ってお預かりします」

「それと…」

 兄はちらりと私を見て、それから先生に向き直る。


「受験以外でも…今後ともお願いします」

「分かりました。


 幸せにします、必ず」


「!?」


 なんか今先生変なこと言わなかった…!?


「舞奈」

 兄が私の肩を組み、私にだけ聞こえる声で耳元に囁く。


「お前は学校に何しに行ってんだ?」

「えっ?」

「彼は信頼できる人だと思う。けど、お前受験生なんだぞ?ちゃんと自覚持って勉強しろよ!いいな!」

「!!」


 お兄ちゃん…これだけのやり取りで私が先生を好きなこと、見抜いちゃった…?


「じゃあ俺はこれで」

と会釈した兄が、木苺ジャムみたいに真っ赤な私を置き去りにして店を出ていった。