自宅の最寄り駅。
 午後1時45分。


 今日は少し広いVネックが大人っぽいロイヤルブルーのニットワンピースにコートを羽織ってみた。

 ワンピースは幽かに一緒にしまってあったパープルのオードトワレの香り。

 花柄のバッグにはもちろん問題集。


 この時間は電車の本数が少ない。
 次の電車に先生が乗っていないとその次は2時を過ぎてしまう。


 閑散とした改札にホームのアナウンスが流れてきた時、

「あっれ!?舞奈じゃん!?」

 甲高い声が響く。

 振り返るとそこには知った顔があった。


「ユナちゃん!」

「久しぶり~!!え?小学校の同窓会で会って以来だよね?2年ぶりとかじゃん!?」


 ユナちゃんは小学校の同級生。
 中学から今の学校に入った私は地元の友達に会うことは珍しい。


「舞奈待ち合わせ?」

「うん。ユナちゃんは?」

「私も高校の友達と遊びに行くとこ。今日代休でさ」

「あ、うちもそう。ユナちゃん高校どこだっけ?」

「西高だよー」

 西高はこのエリアで二番手の県立高校。


「西高って他に誰が行ったんだっけ?」

「んー…舞奈が知ってる人あんまりいないかも。
 あ、清瀬が一緒だよ。清瀬優翔《きよせゆうと》、覚えてる?」

「う、ん…」


 誰だっけ…?

 と思ったところで、ホームに電車が着いた音がした。


「清瀬、相変わらず凄いモテるよー。なんか会う度に違う女の子連れてる」

「へぇ…」


 ごめん、ユナちゃん。清瀬さんが誰だか分かんないや…


 訊ねようとしたところで、改札の向こうで階段を降りてきた先生の姿が見えた。

 先生も私の姿を捉えて、右手を挙げる。


 黒のショートトレンチとデニムに柔らかそうなグレーのマフラーをふわっと巻いた先生の姿はいつもより更にカッコ良く見えて、思わずにやけてしまう。


 そんな私に気付いたユナちゃんが私の視線を辿る。


「舞奈の彼氏!めっちゃカッコいい!!」


(あ…)


 彼氏に見えちゃうのかな!?見えちゃうのかな!?


 嘘は良くないと思いつつも、否定したらカッコ良過ぎる先生のことをユナちゃんが好きになってしまうかも!?なんて余計な心配して、曖昧に笑顔を返す。


「幸せそうな顔して!」

 ユナちゃんは私の笑顔の意味をそう捉えて、二の腕にパンチした。


「じゃ私行くね」

とユナちゃんが手を振り、改札に入って行く。


 入れ替わりに先生が改札を抜けてくる。

 先生はいきなり私の頭をくしゃっと撫でた。
 大きな優しい掌に心が安らぐ。


「お疲れ。行こっか?」


 なんかホントにデートみたい。

 先生がホントに私の彼氏だったらな…

 なんて白昼夢を見てしまう。