トゥルル、トゥルル…


「…もしもし?」


 2コールで聞こえる私の好きな声。


「あ、あの…私…南条舞奈です」

「南条!なんだ、こっちから掛けるって言ったのに」

「うぅん…
 あのね、私…早く話したかったの、先生と」

「……」


 返答がない。
 短い沈黙の後に先生が言う。


「可愛いな、お前」


「!!」


(今『可愛い』って言われちゃった、よね!?)


 先生はどんなつもりで『可愛い』なんて言うんだろう?

 好きな人の『可愛い』がどんなにか女の子を、私を幸せにするか…
 分かってるのかな…?


「でさ、質問の件だけど?」


 ひとりドキドキしていると先生は本題を切り出す。

 そうだ…そのことで電話したんだった…


「南条、今日午後忙しい?」


「えっ?」


「あ、ごめん、聞こえなかった?午後空いてないか、って聞いたんだけど?」


 聞こえてたけど、なんで質問の説明が『午後忙しい?』になっちゃうのか分からなくて聞き返したんだけど…


「結構込み入ってんだよね、この問題。もし良かったら会って教えるけど?」


(えぇっ!)


 電話だけでもドキドキなのに、先生は更に素敵な提案をしてくれる。


「今日用事あったら別に明日でも…」

「大丈夫!今日全然空いてる!!」


 ていうか、今日も明日も逢いたいよ!


「もし差し支えなかったらそっち行くけど?どっか…駅前なんかに長居できるとこある?」

「あ…うん!駅前商店街の一本裏通りにハンバーガー屋さんがあって、そこならわりと空いてるし大丈夫と思う」

「分かった」


 私は先生とこっちの駅に2時に待ち合わせする約束をして電話を切った。


 先生の声が止んだスマホをじっと見る。


(先生に逢える!)


 高鳴る胸がトクトクと音を立てる。


「舞奈、昼ごはん出来てるよ」

 ドアの向こうで母の声がする。


「今行く!」

 正直ごはん食べるのももどかしいんだけど。

 せわしい気持ちで私はダイニングに駆け込んだ。

        *   *   *