「うわ…」

「キャッ!」


 私に躓いた誰かは辛うじて持ちこたえるも、私の積み上げたケースをガシャンと蹴飛ばした。


「あ!ごめん!」


 その人は

 初原先生だった。


 そして先生は私の脇に屈み、

「大丈夫だった?南条さん」

と言った。


「先生、私の名前…知ってるの?」


 驚いた私に先生は

「映研の南条さん、でしょ?」

と言って微笑む。


 春休み、初めて逢った時と同じ、とろけるような甘くキラキラの笑顔で─

 途端に私の胸が早鐘を打つ。


 先生は私に怪我がないことを確認すると、再びケースを拾うのを手伝ってくれた。

 それから、

「一番上?」

と言って上の段に手を伸ばす。


「先生、届きます?」

「失礼だな。届くよ」


 先生は苦笑いして棚にしまっていく。

 小顔だから華奢で小柄に見えていたけれど、実際はそうでもなくて、その手は明らかに私より楽々上の棚に届いている。
 
 私は先生の端正な横顔を黙って見上げていた。


 先生は全てしまうと、机の上にまだ残っている片付けかけのDVD達をちらりと見た。

 それから私の方に向き直って

「片付けてくれてるの?手伝うよ。」

と言った。


「…え」

 私は唐突な申し出に戸惑う。


「…いいです」

「なんで?」

「だって先生…忙しいでしょ?」

「忙しいは忙しいけど、でもそれ、授業の備品でしょ?」

「けど先生新人だからやること多いんじゃない?」