「あ、そんなこと南条にはどうでもいいか。まぁ、南条には誤解されたくなかったからって話」


 ふっと笑って言うと、先生は手近な椅子に腰掛ける。


(どうでもよくないしっ!)


 そう言ってしまってもいいのか迷っているうちに、先生は別の話を始める。


「模試だったんでしょ、昨日。どうだった?」

「う…それが…全然ダメで…」

「えっ!?何やってんの!?もう11月になるんだけど?」

「……」


 半分は先生のせい!と叫びたいのを飲み込む。


「ちょっと成績良いからって見くびり過ぎじゃね?」

「……」


 確かにあとの半分はそうなんだけど…


「今日持ってんの?模試の問題」

「あ、今日はない…」

「明日持ってこいよ。見てやる」

「いいの?」

「今更。どうせいつも聞きに来てんじゃん」

「…ありがとう、先生」

「一緒に頑張ろ?な?」


 先生は前髪を掻き上げて、その手を頭に置いたままいつもの眩しい笑顔で微笑む。

 今朝まであんなにあんなに先生に逢える心持ちじゃなかったのに、今またこんなに胸の奥がきゅんとしてしまう。


(好き…大好き…)


「はいっ!!」


 先生の為にも頑張りたい。

 私のこと、いつも優しく気にかけてくれる先生の為に…


 つまらないことで落ち込んで逃げ出そうとする私を止めたい。

 先生に『自慢の妹』と思われる私になりたい。


 これからもきっと落ち込んだり、舞い上がったり、ぶれながら進む私だと思う。


 でも、いつだって先生を好きだって気持ちに嘘はないから。


 大好きな先生の期待に応えたいって気持ちに嘘はないから─

       *   *   *