「南条も夕陽が当たって紅くなってるよ」
先生がにっこり微笑む。
「…あ、あぁ。そ、そうだよ、ね」
最早この紅潮は夕陽のせいだけじゃないと思うけど…
「メモ見て来てくれたの?」
「うん」
「そっか。ありがとう」
「あのっ、お礼を言わなきゃいけないのは私の方で!
それに…すみません。途中で帰っちゃって…」
「全然」
先生は電気を点けて、ブラインドをいつものように閉めた。
「南条」
「はい…」
「誤解したと思うから一応言っとくけど…俺、夜璃子と付き合ってないからね」
「あ…うん…」
「高校生の南条には変に思うかもしれないけど、俺ら学生の頃はみんなで学校に近い夜璃子の家に上がり込んで、朝まで飲んでディスカッションするとかが日常だったから。まぁそういうノリの話だから」
私はこくりと頷く。
「夜璃子はさ、見た目は女だけど、そういうの関係なく『同志』だから。
まぁアイツは俺のことただの元級友くらいにしか思ってないかもだけど」
あ、これ、夜璃子さんも同じこと言ってた。
そういう意味では『相思相愛』なのかもしれない、この二人は。
そんなことを思ってふと笑いそうになると、不意に先生が言った。
「それと俺さ、そもそも彼女いないから」
「え…」
夜璃子さんから聞いてはいた。
けれど、先生の口からあえてそんな言葉が出るなんて…
私の胸は再び激しく刻み出す。



