17話「秋の夜長」



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 しずくは、心地良さを感じながら夢を見ていた。

 暖かい南の島で、白と2人で大自然の中、星空を見上げていた。草の香りを感じながら、寄り添うように地面に座り、時々現れる流れ星を見つけては、指差して教えあっていた。
 ゆったりとする時間と隣の白の熱がとても気持ちよくて、しずくはぎゅーっと白に抱きつく。
 すると、白も抱き返してくれて、しずくは胸が苦しくなりながらも幸せを噛み締めていた。そんな、しずくに白は、唇や頬、額などに軽くキスを落とし始め、気づくとそれは首筋にもなっていた。
 くすぐったさを感じ、「白くん、くすぐったいから、やめて、、。」と、しずくが言っても白は止めてくれない。
 あぁ、もう笑い声が我慢できない!そう思った瞬間、目が覚めたのだ。


 「あれ、、、ここ、、、。」
 「僕のうちですよ?目覚めちゃいましたか?」
 「、、、!?は、白くん!」

 目覚めてすぐに目の前に彼の顔があり、しずくは驚いて体を上げようとした。が、今は彼の両腕が顔の脇に置かれて、拘束されているような状態のため動けなくなっていた。彼に見下ろされる格好で、しずくはすぐに固まって動けなくなってなってしまう。

 「ごめんなさい、、、待ってる間、寝てしまったみたい。」
 「いいですよ。安心してくれてるってことで嬉しかったです。それにしても、すごくニコニコしてましたけど、どんな夢を見ていたのですか?」
 「えっと、、、白くんとデートする夢だよ。」
 「なるほど。もしかして、キスする夢みてました?」
 「、、、え?なんでわかったの?」
 「なるほど。現実と夢は繋がる場合もあるんですね、、。」
 「それって、どういう、、、。」

 続きを言おうとした言葉は、白のよって阻まれてしまう。言葉を奪うように、白にキスをされる。
 しずくだって、その言葉の意味はわかる。寝ている間に口づけをされたのは恥ずかしいが、いとおしくも思うのだ。白のいった通り、寝ている間も同じことをしていたのだから。

 うっとりとした目で唇から離れていく白を見つめる。すると、白は優しく髪を撫でてくれる。

 「しずくさん、寝ましょうか。」
 「、、、え?」
 「今日は疲れているみたいですし、ゆっくりしましょう?」
 「、、、白くん、、、。」

 しずくは、自分で思っている以上にショックを受けていた。やはり白は自分の事は好きでも、求めてくれない。大切にしてくれるけれど、深くは繋がりたいと思っていないのだ。そう考えるだけで、女としての魅力がないとか、恋人同士なのに、というモヤモヤした気持ちが一気に出てきてしまう。
 気持ちが高ぶってしまったからか、目がぼやけてきて、涙が出そうになってしまったことに気づく。

 「しずくさん、、、?」
 「ごめん!何でもないの、眠いからかな?何でだろう。」
 
 誤魔化せるとは思っていない。
 けれども、寝てしまえば忘れられる。また、夢の世界なら悲しくない。そう思って、ぎゅっと目を瞑った。
 すると、白はしずくの横に一緒にからだを倒して、またしずくをじゅっと抱き締めた。


 「しずくさん。僕はすごくしずくさんが欲しいです。今、こうしているだけで、しずくさんを自分のものにしたくて、仕方がないんです。」
 「、、、うん。」
 「でも、今日はだめなんです。全てしずくさんがリードしてくれて、今日は僕の家に来てくれることになりましたよね?だから、次は僕からお誘いしたいんです。」
 「白くん、、。」
 「しずくさんより年下ですけど、しずくさんを貰うときは、しっかりエスコートさせてください。それに、今日は僕が我慢できる男だってわかってください。」
 
 そう言って笑う彼。
 白は、いつもこうやって、しずくの考えている事以上を考えてくれている。それが、自分よりも大人で、しっかりしているところが悔しくもあるが、彼の魅力の一つでもあるのかもしれない。
 今、彼が欲しいと言えばすぐにでも、彼は自分に熱をくれるだろう。けれども、それは彼が今は求めているものではない。
 彼のエスコートがどんなものなのか、期待しながらしずくは、静かに頷いた。

 「じゃあ、私も我慢するね。でも、1つだけお願いしてもいいかな?」
 「なんですか?」
 「白くんと一緒に寝たいな。こうやって、くっついて。」
 「、、、もちろんです。僕もそうしていたいです。」

 白は、少し体を上げて部屋の照明を消して、サイドテーブルにある小さな灯りをつけた。
 真っ暗な中に温かい光が灯り、それによりうっすらと白の顔が見える。
 布団をかけると、2人の熱であっという間に布団の中が温まった。

 「あったかいね、、、。」
 「はい、、。あの、僕からもお願いしてもいいですか?」
 「うん、もちろんだよ。」
 「眠るまで、キスしてもいいですか?」
 「、、、うん。」


 それから、2人はうとうとするまで、小さなキスを何回も繰り返した。キスをしながら、クスクスと笑いあったり、ちょっとした話をしたり。
 こんな幸せな夜があってもいいのだろうか。
 熱でまた瞳が濡れてしまうぐらいの温かさと幸せを白に貰って、しずくは長い夜を過ごした。