「白くん。笑わないで聞いてほしいんだけど、、、。」
 「はい。」
 「あのね、私、白くんのおうちに行ってみたいの。」 
  
 妙に姿勢がなり、背中がピンっと伸びていたが、手は、力が入っていたのかスカートをぎゅっと握りしめていた。顔は真っ赤になっていたのはわかっていたが、しっかりと彼の事を見て話しをしたかった。
 すると、白は少し驚いた顔になったが、すぐにいつもの優しい微笑みで「いいですよ。」と答えた。

 「本当は自分から誘うべきだとわかっていたのですが、仕事場でもあるので内緒にしてた事がバレてしまうと思って。すみません。心配でしたよね。」

 そう謝罪までしてくれる白。少しは恥ずかしそうにしてくれるかな?と期待していたしずくだったが、全く動じない彼を見て、残念だったのと同時に恥ずかしさも感じてしまった。部屋に行くことがどういう事なのか、しずくだけが変な期待をしてしまっているように思ったのだ。

 「今から行きましょうか?時間もまだありますし。」
 「いいの?」
 「はい。近くの駅から電車ですぐなので。夕飯も何か買って帰りましょう。」
 「ありがとう、白くん。」

 白くんがすぐに家に招待してくれた事に、安心をしながらも、しずくは少しだけ寂しさも感じてしまったのだった。
 
 近くのデパ地下で、ピザやサラダ等のお惣菜やデザートのフルーツやケーキを買った後、お店を出ようとした時だった。
 「しずくさん、お酒は飲みますか?」
 近くにワインショップがあり、そこを指差しながらそう言った。

 「ワインは好きだよ。白くん、詳しいの?」
 「知り合いに詳しい人がいて、少しなら。」
 「そうなんだー!私は全然分からなくて、、、。」
 「甘いのが好きですか?」
 「うん。白くんは?白くんのおすすめでいいよ?」
   
 お店に入り、白くんはワインを物色しながら、しずくの好みを聞いてくれる。

 「僕は、飲まないのでしずくさんの好みの味にしましょう。」
 「え?飲まないの?苦手とか?」

 ワインを勧めててくれるのに、彼が飲まないのは寂しいと思い、ついつい質問してしまう。
 一緒にお酒を飲みたいのだった。食事に行くときは大体白が車で送ってくれるため、白はお酒を飲まないことが多かった。

 「苦手ではないですよ。しずくさんを帰り車で送るつもりなので。」
 
 その言葉を聞いて、「あぁやっぱり。」としずくはまた沈んだ気持ちになる。
 白くんは、ずっと一緒にいたいと思ってくれないのだろうか?
 そう思っているのは自分だけだと感じられる瞬間は、自分だけが先回りしているのかと不安になる。

 「白くんと一緒にお酒飲みたい。」
 「え、、、。」
 「送らなくていいから。ダメかな?」

 さすがにこの言葉を言う時は、恥ずかしすぎて下を向いてしまった。そのため、しずくは白がどんな顔をしているのかわからなく、それがまた不安を倍増させた。彼は照れてくれてる?それとも、呆れてる?顔をあげたくても、怖くてあげられなかった。

 すると、しずくに近づく気配を感じ、ぎゅっと目を瞑ってしまうと、耳元で囁く声が聞こえてきた。

 「今日は泊まってくれるんですか?」

 自分にしか聞こえない小声で、優しくそして男らしさを感じる低い声で白はそう言った。
 その瞬間、しずくは胸が締め付けられるような感覚に襲われていた。でも、その感覚はイヤなものでもなく、何故か心地よくて彼といるとよく起こる、幸せな痛みだった。それがいつも以上に強い事に驚きながらも、白の顔が見たくてしずくは少しだけ顔を上げる。
 そこには少年のような顔はなく、大人の男性の顔があり、そして少しだけ頬を染めながら、余裕がない表情で返事を待つ彼の姿があった。
 彼の見たことがない表情に目が離せなくなりながらも、コクリと頷き何とか返事をする。

 すると、その表情のまま更に彼の顔が近づき、気づくと短いキスをされていた。
 しずくは、頬が緩むのを隠せず、片手で口元を慌てて隠してしまう。店内には客もほとんどいなく、二人がいた場所も店の奥だったため、誰にも見られてはいないのはわかっていた。
 彼がこんなにも大胆な事をするとは思ってもいなく、驚きながら彼を見つめてしまう。

 すると、白は「ワイン買ってくるので待っててください。」と、1本のワインを棚から出して、そのままレジへ行ってしまった。

 
 その後、2人は会話も少ないままタクシーに乗り、白の家へと向かったのだった。