白はそう言いながら、鞄の中から一冊の本を取り出した。小さめの絵本で、ひらがなで「パチパチパチパチ!」と書いてある。絵はウサギや猫などの動物が手を叩いてる可愛らしいものだった。
 そこにはしっかりと、「さつき」と白の作家ネームがあった。しずくは、さつきの絵本を沢山読んでいるが、この絵本は見たことがなかった。それに、いつもは淡い色合いが多いかったが、今回は色が濃くはっきりとした印象を受けた。
 
 「これってもしかして新作?」

 しずくがそう聞くと、白は嬉しそうに頷いた。

 「これは、しずくさんにプレゼントです。世界に1つしかないんです。」
 「え!?1つだけ、、、。」
 「0才児の子どもたちに読んであげてください。今回、赤ちゃん向けを作るのはかなり苦戦したんです。赤ちゃんはビビットカラーの方が認識しやすいとか、繰り返しとか絵本の真似をするのが好きだとか。」

 白は子どもを楽しませるために絵本を作ってくれたのだ。しずくの教え子のために。
 そんな白の気持ちが嬉しくて、しずくは少しだけ目がうるんでしまった。
 世界にたったひとつのプレゼント。それも、大好きな彼からのもので、しかも思い出が深い「絵本」となると、とても大切なものになる。

 「本当はしずくさんへの絵本の方がいいのかなって。ロマンチックなのかなっても思ってんです。けど、絵本は沢山使ってもらった方が、僕は嬉しいので。」
 「ありがとう。本当に嬉しい!読んでもいい?」
 「もちろんです。」


 しずくは、絵本のページをゆっくりと捲った。すべてのページの動物たちが、可愛いかったり、楽しそうだったりで、子どもたちにも目が惹く色合いもとても素敵だった。白が話したように、繰り返しもおもしろく、何回か読んだら子どもたちは覚えて真似するだろう、としずくは子どもたちの姿をすぐに想像できた。
 集中出来る時間が短い子どものために、ページ数も少ないのであっと間に絵本は終わってしまった。
 白は、少しだけ心配そうにしずくを見ていた。

 「うん、子ども達、とっても喜びそうだよ!白くん、すごいね!」
 「、、、!本当ですか?よかったですー!」

 しずくの反応を見て安心したのか、彼はホッとした表情を見せた。

 「でもね、、、、白くん怒らないで聞いてね?」
 「はい!アドバイスは嬉しいので!!」

 しずくは真面目にしずくの説明を聞こうとしていた。絵本に対して本当に真剣なんだな、っとわかる態度にしずくは白がますますかっこよく見えてきた。
 しずくは「アドバイスではないんだど、、、。」と、前置きをしながら、白にやさしく語りかけるように話しをした。

 「こんなに楽しい絵本なのに、私だけなんて勿体ないなって思っちゃったの。私だけ独占したいって気持ちも、もちろんあるんだけど、、、他の赤ちゃんにも楽しんで欲しいって思ったりで、、、少し葛藤してるけど。」

 そう伝えると、白は少しポカンとした表情になったが、すぐに「クククッ。」と顔を歪めて笑い始めた。しずくは、何か面白い事を言ってしまったのかと思ったが、何故白が笑ったのかわからずに、「えっえ?何で笑うの?」と戸惑ってしまっていた。少しの間、困り顔のしずくを残して白は笑い続けたが、「すみません。しずくさんらしいなって。なんだか、嬉しくて。」と白が少し笑いすぎて涙が出そうになったのか目を指で拭きながら、やっと言葉を発した。

 「しずくさんは、本当に僕を褒めるのが上手ですね。現役の保育士さんに褒められるのは嬉しいです。しずくさんには、特別に幸せですし。」
 「、、、白くんの方が上手だと思うけど。」
 「じゃあ、お互いに、ですね。」

 そんな事を言って二人で笑い合う。
 ゆったりとした時間の中で、囁き合うように言葉を交わし、笑顔や時には真剣に話せるのが、白でよかったと、しずくは思った。

 「しずくさんだけの本は、またの機会に、ですね。」
 「うん!それがいいと思う。」

 喜びつつも「せっかく私のためにつくってくれたのに、我が儘でごめんね。」と白に伝えながら、いつも白がしてくれるように、彼の頭を軽く撫でる。
 すると、白は一気に顔を赤くしてうつむいてしまう。

 「これ、実は恥ずかしいんですね。」
 「そうかな?私は好きだよ?」

 素直に白に撫でられるのが好きだと彼に伝える。
すると、「反則ですよ、、、。」と手で顔を覆いながら白は照れていた。

 「白くん?」
 「、、、これから沢山したくなりました。」
 「沢山してくださいね?」

 素直なしずくの言葉に、白はまた顔を赤く染めていた。サプライズのお返しに、しずくから沢山の嬉しい言葉を貰い、幸せな気持ちからかすぐにでも彼女を抱き締めたい衝動にかられていた。