5話「懐かしい場所と昔の仲間」



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 白は後ろ髪を引かれる思いで、しずくと別れた。
 せっかくの仕事帰りのデート。1日仕事を頑張れるのも、夜の楽しみがあるからだと、白は思っている。

 ずっと昔から憧れて、大好きだった女の人。
 初恋でもあるし、尊い人でもある。自分にはずっと勿体ないと思っていた。大分年下でもあったし、時々彼女を見ているだけで満足しなければいけないと思っていた。
 けれど、時間が経てば経つほどしすぐさんへの想いは大きくなっていった。

 自分がやりたいことを見つけられたのも、独りではなくたくさんの人と関わりを持つようになったのも、そして夢を叶えられたのも。
 すべては、彼女のおかげだった。
 いつからか、自分で納得のいく大人の男になれたら、告白をすると決意するようになっていた。
 自立もしたし、絵はまだまだかもしれないが、仕事もうまくいっているのだ。
 何よりもう我慢の限界だったのかもしれない。

 彼女と話したい。声を聞きたい。話を聞いてほしい。
 彼女の瞳に自分を映してほしい。彼女を正面から見つめたい。
 彼女に名前を呼ばれたい。覚えてほしい。思い出してほしい。

 ずっとずっとそう思っていた。
 他の女の子に興味を持つこともなく、ただただしずくを考えてきた。


 思いきって告白をした後も、いろいろあってすぐに付き合うことはなかった。むしろ、自分から逃げ出しそうになっていた。
 そんな時にまた手を取ってくれたのは彼女だった。

 そんなキラキラとした笑顔で笑う彼女が、自分の彼女に彼女になってくれたのは、今でも信じられない。
 けれども、毎日連絡や電話をしたり、手を繋いで歩いたり、甘い言葉を囁くと、真っ赤になりながらも応えてくれたり。
 そして、キスをすると恥ずかしそうにしながらも、幸せそうに微笑んでくれる。

 思い出すだけでもニヤけてしまいそうなぐらいに、毎日が幸せだった。

 

 それなのに。
 今日はこうしてせっかくのデートが台無しになってしまった。
 彼女が、何かそわそわしていたのにも気になっていたが、それも聞くことが出来なかった。それもこれも、電話の相手のせいだった。

 「はぁー、、、。今日は日付が変わる前に帰れるかな、、、。」
 ため息をつきながら、まずは車を取りに自宅へと戻ったのだ。