たしかに、割烹「関が原」は松平部長の行きつけの店であるが、この時間であれば既に切 り上げて、二次会に向かっている公算が強い。御堂筋を北へ猛進する島津隊は、国道二号線と交差する二叉路で、大阪人が「シンミ」と呼ぶ新御堂筋に進路を替えた。割烹「関が原」がある北新地方面ではなく、松平部長のもう一つの御用達と言われる、スナック「ゴリラ★チョップ」のある太融寺方面へと向かうためである。
 

ところが、その新御堂筋は悪いことに、年度末の帳尻合わせか、飲酒運転の検問が行われていた。法律的には自転車に乗っての飲酒運転も立派な法律違反である。道路交通法には「車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態にあつたもの」と記してある。実際、自転車での飲酒運転を検挙したというニュースを、小早川ケンタは先日インターネットのトップニュースで見たばかりだった。

 そういえば島津さんはちょっと酒臭いような気がする。いや、単なる口臭か。それにしても大の大人がママチャリに二人乗り。これが警察に咎められないわけがない。小早川ケンタがは恐る恐る島津の顔を覗いた。すると島津という人物は元来からしてまつろわぬ、反権力的な男なのだろうか、なんとこの窮地にむしろ嬉しそうに笑っているのだ。警察への反抗の好機に舌なめずりしている、そんな様子だった。島津はキタの夜空に向かって咆哮した。

 「。ええい!ままよ!!」

 絶叫するや島津はママチャリをさらに加速させ、検問用に設置された斜線の入ったカラーコーンとコーンバーをめがけて真っ直ぐに突進した。・・・乾いた音が響く。虚を突かれて唖然とする警官の顔。振り返る千鳥足の酔客。腕をにしがみつく髭面のオカマ。島津隊に吹き飛ばされたカラーコーンとコーンバーはカラカラと道路に転がった。