しかし、その執念も不幸なことに本田次長の携帯電話がPHS方式のものであったことが命取りとなった。通話が順調でないように見える小早川ケンタから、島津は突然半身になって携帯電話を奪い取った。

 「。本田クン、わしです、島津です、、、もう何の心配もいらん、松平ぁんとこにアンタのとこの若い衆を連れて行く。」

 「薩、、守、、殿!お久、、本田で、、る!あいや、その、件、、」

 本田次長が食い下がろうしたが電波状態が悪い。しばらく耳を澄まして聞いていた島津であったが、音声の悪さに根を切らしたようで、携帯電話に向かって叫んだ。島津はどうも操状態のようである。

 「。男は四の五の言わんとだ!!」

 島津は一方的に本田次長にそう告げると、手に持っていた携帯電話を天高く空に投げ上げた。携帯電話とストラップは夜空にきらめいて美しい弧を描いて対抗斜線を越え、淀屋橋から土佐堀川にポチャと小さな音を立てて沈んでいった。もう賽は投げられたのだ、島津はそう言いたかったのかも知れない。

 「あー!!それ!オレの!ケェータイ!!」

 小早川ケンタの悲鳴はキタの夜に吸い込まれていった。