『私から聞いたって言わないで欲しいんだけど、貴司の元カノって同僚なんだ』

『え! 同僚ですか』

『うん、私たちの2つ上の先輩なんだけどね。色々こじらせたあげく結構、酷い別れ方をしたみたいで、一時人間不信みたいになっちゃって』

『それっていつの話ですか?』

『転勤する半年前よ。本当は本社で昇格の話もあったんだけど、それを蹴って東京に行ったの。色々嫌になったんでしょうね』

『その別れた人は?』

『今は長期の海外出張中。で、戻ったら取引先の専務と結婚するんだって』


きっと、その同僚とは柴咲さんのことなんだろう。

彼女がいる場所と、水瀬さんがいる場所は見えない壁が張られているようで、見てるこちらが何とも言えない気持ちになってしまう。

どうして、今このタイミングで、戻ってきたの。



松波さんたちとの再会の挨拶を交わした柴咲さんが、こちらを見た。

「おかえりなさい」と、彩さんが笑顔を貼り付ける。それに答える形で、「ただいま」と頷いた柴咲さんは、眩しいほどの笑顔を水瀬さんに向けた。


「あら、珍しい人がいる。元気だった?」

「ああ」

「もう、相変わらず素っ気ないのね。会えて嬉しいくらいのこと言えないの?」


朗らかに歌うような笑い声。

その人を見つめ返す水瀬さんの瞳は苦しそうで寂しそうで、あのBARで見たときと同じ憂いを秘めていて。

そして、愛おしげに瞼を閉じるようにも見えた。