そんな私を見て、彩さんがニヤニヤ笑う。
親指をぐっと立てて、何の合図ですか。この人、絶対、楽しんでいるな……。
応援してくれるのは有り難いですけど、笑いのネタにするのはやめてくださいね、っと、目で訴えかけたところ、彩さんの表情が凍り付いていることに気が付いた。
彼女の視線は、会議室の入口付近に向けられている。
どうしたのだろう?
つられるように私も目線を動かしたその時、本部長の大きな声が聞こえた。
「皆、ちょっといいか。柴咲(しばさき)が戻って来たぞ」
「え、柴咲さん!? わー、お久しぶりです」
「いつパリから戻られたんですか?」
本部長の陰に隠れるようにして立っていた柴咲さんが顔を覗かせた途端、松波さんを筆頭に社員たちは嬉しそうに彼女を囲んだ。
歓迎を受けて、零れる笑顔。
柴咲さんという人は上品なパンツスーツが良く似合う長身の美人で同僚から人気があるらしい。
しかし、そんな彼女を苦々しく見つめる彩さん、太田さん。
そして、無表情の水瀬さんを見て、私は全てを察した。