水瀬さんにとっても、あずちゃんは大事な部下だ。

プライベートと仕事は分けたいなんて言いながらも、やっぱりちゃんと守ってくれるんだね。水瀬さんはそういう人なんだってここ(大阪)に来て分かったのに、私、さっき独りよがりの、すごく失礼なことを言ってしまった。


「水瀬さん、あの、さっきは、すみませんでした」

「何がだ? いつまでも俺の腕にぶら下がっていることか? 見かけに寄らず重いな。いい加減、痺れてきた」

「え、あ! ごめんなさい!」

「冗談だ」


じょ、冗談? 水瀬さんって冗談とか言うキャラだっけ?

慌てて腕を離した私に、水瀬さんは「ちょっと待ってろ」と言い、タクシーを止めに行ってくれた。ここから宿泊しているホテルまでそう遠くないはずだけど、この足で歩くのは無理そう。

待っている間、私と彩さんは通行の邪魔にならないところに移動した。

星の無い空をなんとなく見上げていると、彩さんが思い出したようにクスリと笑う。


「貴司があんなに怒ったの、初めて見たわ」

「え?」

「ね、どうして私たちがここに来たか分かる?」

「そういえば……」

「あいつ、打ち上げの途中もずっと紗夜ちゃんのことを気にしててね。縁もゆかりもない土地で用事なんかあるはずないのに、誰と何をしているんだって」