え、この声は……。
顔をあげると大河原さんの肩越しに、こちらを睨む水瀬さんが立っていた。その後ろに彩さんの姿もある。
ふたりはここまで走ってきたのか息があがっていて、彩さんに至っては髪も乱れ鼻が赤くなっている。
そういや、外は寒い。
吐く息も白くてぶるぶる震えるくらい寒いんだと気付いたら、自分でも驚くほど体が震えだし、水瀬さんに腕を引かれそのまま抱き寄せられた。
それはほんの一瞬だったけど、凍えた体が熱を取り戻すようで。
怖かった、すごく。
「紗夜ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です……」
「大河原、あんたねぇ」
「分かった分かった、それ以上言うなよ。退散するから」
彩さんの剣幕に大河原さんはバツが悪そうな顔をして、待たせていたタクシーに1人乗り込んだ。
赤いテールライトがどんどん遠くなっていく。
一歩遅ければ、あのタクシーに私も乗っていて、どこか知らないところに連れていかれて、そうしたらもう何をされても文句は言えない。
私……私……、
「何やってんだ、ばか」
大河原さんを乗せたタクシーが完全に見えなくなり、溜息を吐いた途端。
水瀬さんが怒鳴った。



