行くってどこに?

あ、静かな場所だっけ。静かな場所、静かな場所っていうのは……。

大河原さん肩を抱かれ歩いている間も頭はぼんやり働かず、ふわふわとした感覚のまま、路上の上を走る車を見つめる。

1台、2台、ヘッドライトの明りが遠ざかり。

やがて1台の車が目の前で停まった。


「乗って」


これ、タクシーだよね。

自動で開いたドアの中、シワひとつない綺麗なシートがやけに白く見える。

鼻につく、独特な匂い。

その頃になってようやく身の危険を感じるなんて遅すぎるのだけど、強引に車の中へと押し込まれそうになった刹那、頭の中がクリアになった。


「や、すみません、私、乗れません」

「今更何を言ってるわけ? ”あずちゃん”のことを聞きに来たんじゃないの」

「それはそうですけど、あっ」


頭はすっきり晴れているのに、足元はふわふわしたままおぼつかない。

右手は大河原さんの腕を、左手はタクシーのドアに掴まって体を支えていると、運転手さんの少し苛立った声が聞こえて来た。


「お客さん、乗るの? 乗らないの?」

「乗ります。ね、高木さん」

「いや、でも」


その時だった。


「悪いが、うちの部下を返して貰おうか」