「――――水瀬さん!」


キャメル色の背中を探して、やっと見つけたのは公園の中だった。

駅に向かう途中にあるここは中央に噴水があって芝生があって、周りを囲むように作られた遊歩道ではジョギングをしている人も多くいる。

当然カップルも……夜は多いが、昼間である今はご老人や家族連れの方が目につく。犬の散歩をしている人もいる。


「歩くの早すぎです、追いかけるの大変ですよ」

「ついにストーカーを認めるのか」

「違いますよ、お礼言ってないので。あの、ごちそうさまでした」

「別にあれくらい気にするな」


いや、言わせてよお礼くらい。

くるり向きを変えて、再び大股で歩き出した水瀬さんを呼び止める術はもうないのか。さすがに、これ以上はしつこ過ぎるか。仕方ない、今日のところは帰ろう――――と。

踵を返そうとした私の目に飛び込んだのは、真っ白な犬に絡まれている水瀬さんだった。

その遥か遠くでリードを振り回しながら、大声をあげる飼い主さんらしき老人もいる。


「いやぁ、助かりました。急に走り出したもんで」

「いえ、可愛いワンちゃんですね。なんていう種類ですか?」

「ビションフリーゼです」

「あぁ、確か最近のドラマで使われている犬種ですね」

「よくご存じで。こいつは犬好きな人が分かるようですぐ走って行ってしまうんですよ。いやはや、彼氏さんは相当な犬好きのようですな」