「言っておきますけど、偶然ですからね?」
そんな、あたかもストーカーに追い回されたような顔をするのは止めて欲しい。
綺麗な顔が台無しですよ。
ラッキーなことに、水瀬さんの連れだと勘違いしてくれた店員さんの案内で彼と同じテーブルに腰を下ろし、珈琲を注文する。小腹が空いたのでケーキも一緒に。
見ると、水瀬さんの前にも飲みかけの珈琲と、空になったケーキ皿があり、「へぇ」と、自然に声が出た。
「なんだよ」
「甘いものがお好きなんですか? 休日に独りカフェとか意外です」
「たまたまだ」
「そんな照れなくても大丈夫ですよ、誰にも言いません」
「弱みを握ったみたいな顔してるように見えるのは、気のせいか」
「ちなみの食べたのはどれですか?」
メニューを広げてみたけど、思いっきり無視された。
水瀬さんといえば、いつも選ぶものが決まっていて、飲み物は水、食事はおにぎり、煙草はメビウス。スーツは基本ブラックでたまにネイビー、ネクタイも同じような色でスマホなどの小物は黒か濃紺。
意図的なのか、それとも偶然なのか、無駄なものを省いたまるでロボットのようだと言われている。



