え? え? どういうこと?
待っていたのは私の方で、水瀬さんはもうてっきり帰ったものだと……いや、そもそも落ち合う約束なんてしてないし、ここって駅だよね。ていうか私、ぼんやりしている間に駅まで歩いていたんだ。
それで、どうして水瀬さんがここに?
「やっぱりな、傘持ってない」
「え? あ、そうなんですよ。急な雨で。でも大丈夫ですよ、走って帰りますから」
「そんなところだと思った。ほら、持っていけ」
「そんな! いいですよ、水瀬さんが濡れちゃうじゃないですか」
「部下の体調管理をするのも上司の役目だ。いいから、ほら」
ぐっと押し付けられた、男物の大きな傘。
これを渡すために、ここで待っていてくれたの……?
水瀬さんは「風邪引くなよ」っと言い残し、反対側のホームへと足早に去っていく。
その背中を見つめながら、傘をギュッと握りしめた。
ずるいですよ、こんなの。
ずるいです。



