あーあ、逃げられたか。
もう30分粘ってもいいけど、全然待てるけど、既に帰っている確率の方が高いので、今夜は諦めることにしようとジムを出てビルの1階までエレベーターで降りる。
ドアが開き、エントランスに一歩足を踏み出したところで床が濡れていることに気が付いた。
最悪、雨降ってるんだ。
傘持ってないのに。
「でも、まぁいっか」
ここから最寄りの駅まで、徒歩1分。
バスターミナルの上にかかる歩道橋は屋根があるし、駅に入ってしまえば雨に濡れることもない。問題は降りた駅から自宅マンションまでの15分だけど、帰るだけだし走れば何とか。
それか、昌也のお店に行こうかな。
ユリヤも呼んで――、
「おい」
ぼんやり考え事をしながら歩いていたから、その声がまさか自分に向けたものだとは思わなかった。
もう一度、「おい」と腕を掴まれ、我に返る。
驚きつつも顔をあげると、不機嫌そうな瞳と目が合った。
「み、なせさん?」
「いつまで待たせるんだ、全く」



