「覚えてたのに、覚えてないフリぃ? 何でまた」
「知らないよ、こっちが聞きたい」
「なぁーんか、面倒くさそうな男。どこがいいの?」
「それ聞く? 聞いちゃう? あと3セット分くらい掛かるけどいい?」
食い気味で話すと、ユリヤは「もう限界」と大きく頭を振った。
首筋から胸の辺りにかけて汗が滴っている。
そういう私も既に限界がやってきていて、首にかけてあるタオルで汗を拭きながらエアロバイクの終了ボタンを押した。水分補給をしてから、今度は上半身の筋トレに勤しむ。
ここは、今年の春にできたばかりのスポーツジムで、ユリヤと一緒に週3で通っている。会社から近くて便利なんだ。
「しかし、頑張るよね、紗夜は。私なら次行っちゃう」
だって、どう見たって脈無しじゃん? って悲しくなるからやめて。
上半身の次は、腹筋。隣のマシンに移動するとき、目が合ったインストラクターが爽やかな笑みを向けてくれた。イケメンの笑顔って無敵だわ。
「私思うに、水瀬ってさ、仕事とプライベートを分けたい人なんじゃない?」
「うん、私もそんな気がする」
だから、私が部下だと分かり、知らないフリをしたんだ。
つまり恋愛対象から外された、と。