水瀬さんが着任した当初は、そのルックスや将来性から多くの女子社員が色めき立ち、少しでもお近づきになりたいとアピール合戦を繰り広げていた。
けれど、彼は全く動じず。
それどころか、下心を覗かせる社員には冷たい対応で、『興味がない』『面倒くさい』『遊びに来てるなら帰れ』と、一蹴。
さらに、仕事に関しては鬼のように厳しくて、ちょっとでもミスをしようものなら、『寝てんのか』『やる気ないなら辞めろ』『小学生からやり直せ』などなど。
容赦のない言葉で叱責するもんだから、あっと言う間に人気はなくなり、今では「鬼の副部長」「女嫌いの堅物」なんてあだ名をつけられている。
「でもね、部下想いなところもあって」
「そうなの?」
「うん、この前ね、すっごく無理な注文を付けるサロンさんがいたの」
あれは、水瀬さんが着任して3週間が経った頃。
つまり、先週のことなんだけど、営業部からの紹介でやってきたあるサロンのオーナーさんがイベントの提案をしてくれたのはいいけど、どう考えても無理難題な案件で。
担当した江夏さんがやんわり断るものの、酷く責められたんだ。
『あんたじゃ話にならん、上の人呼んで』



