「もう1個あります!」
「まだあるのか」
「時計を……前に柴咲さんから忘れ物だと預からされた腕時計なんですけど、どうして彼女の家に忘れたんですか」
「家? 家なんか行ってない。あれは車の調子が悪いから見てくれって言われて、ボンネットを開けるときに預かってもらってそのまま忘れただけだ」
そ、そうだったの!?
確かに言われてみれば、”家”に忘れたなんて聞いてない。つまり、私の早とちり……? ガックリと項垂れると、ふっと笑う声が聞こえた。
「そんなにヤキモチ妬きだったのか」
「なっ、違いますよ、これは!」
「違うのか」
「……違わないです、本当は水瀬さんのことを独占したいって、いつも思ってます」
「じゃぁ、いつも言ってくれ」
微笑む瞳の中に、また、あの寂しげな翳りを見つける。それでふと気付く。
完璧に見える彼でも誰かに寄り掛かったり、甘えたり、不安を共有したりする人を求めているのだと。
だけど、不器用な人だから、弱さを他人に見せれる人じゃないから、心を閉じることで自分を守っている。
ねぇ、水瀬さん。
私はあの時、あなたのSOSに気付けたの。
凄いでしょ。



