30分くらい前から数回ほど残されている水瀬さんからの着信は、その前に私が掛けた電話の折り返しなのかと思ったけど、どうやらそうではないようで。
水瀬さんはガラケーの中身を確認してから、パチンと閉じた。
「俺は藤原から連絡を貰って掛けただけだが」
「藤原?」
「一緒にいたはずの高木と会社の近くではぐれてしまって、探してるけど見つからない。駅前で変な奴らに絡まれたから、もしかしたら捕まっているかもしれない――と」
「なっ、なんですか! それ!」
藤原のやつめ。
何ていう嘘をついてくれるんだ。
「藤原の言ってたことは違うのか」
「違いますよ。ええっと、その、はぐれたのは本当ですけど、変な人に追われたりはしてないです」
あぁ、もう藤原のせいで私まで嘘を吐かなきゃいけなくなる。
だけど、私のために一芝居打ってくれたんだよね。胸の奥がジーンと温かくなる。頑張れよって笑う藤原の顔が浮かんだ。後で文句とお礼を言わないと。
そう思ったタイミングで、藤原からおそらく様子伺いの電話が掛かってきた。
すみません、と断って車の外に出ようとしたところ。
「――出るな」
水瀬さんに止められた。



