やっぱりこれは夢なんじゃないかな。
私の手を引いて歩き出した水瀬さんは、近くに停めてあった彼の車の助手席を開けて、乗るように言った。おそらくまだエンジンを切ってからそれほど経ってない車内は暖房が残っていて温かい。
助手席の足元に黒いガラケーが落ちていた。
拾い上げて、あぁ……と溜息。
私、ずっとこの仕事用の電話に掛けていたんだ。
そりゃ繋がらないはずだよ。
次いで自分のスマホを見る。すると、そこには水瀬さんからの着信履歴がズラリと並んでいた。嘘……マナーモードにしたまま鞄に入れていたから全然気が付かなかった。
「悪い、ココアが無かった」
水瀬さんが運転席に乗り込んできた。
彼は私を車に残し、飲み物を買いに行ってくれていたようで、ペットボトルに入った温かいレモンティーを渡してくれた。私がココアを好きなの知ってたんだ。
「ありがとうございます、あの座席の下に電話落ちてました」
「あぁ、そこにあったのか」
「それから電話掛けなおしてくれたんですね。出れなくてすみません。でも、どうしてガラケーの方に掛けた電話に気付いたんですか?」
「ガラケーに電話したのか?」
「え、」
んん? 何だか話が噛み合わない。



