濃紺よりもさらに深い色をした空を眺める。吐く息が白い。
ぼんやり浮かぶ月は雲に覆われており、まばらな星が僅かな光を地球に届けようと必死になっているように見えた。
だけど、どんなに頑張っても月の灯りには敵わない。
水瀬さんにとって月は――――。
と、その時だった。
「高木!」
突然、背後から名前を呼ばれ腕を引っ張られた。
聞き覚えのある声に、まさかと思いながら振り返るとそこにいたのは水瀬さんで。彼を想い求めるあまり、ついに幻覚を見始めてしまったのかと自分の頬を軽く抓ってみる。痛い。
ということは、本物?
「あ、あ、あの」
「今までどこに行っていたんだ!」
えっ、どうして怒っているの?
どこに行っていたんだって、聞きたいのは私の方なんですけど。
状況が把握できず固まる私を他所に、水瀬さんは満身創痍で戻って来たランナーのメディカルチェックをするかのように私の体を上から眺め、最後に頭に手を乗せ自分の胸へと引き寄せた。
「こんなに冷たくなってる。取りあえず行こう」
「え、どこに……?」
「いいから、おいで」



