水瀬さんとこの店に来た時。
トイレの場所が分からずウロウロしていた私を、水瀬さんは面白可笑しく眺めていたらしい。席に戻ってからそのことを言われて恥ずかしくなったところ、
『可愛かったけどな』――といい、私を赤面させたんだ。
そんな思い出が、この店にはいくつか転がっている。
「誰と? なんて聞く方が野暮か」
「藤原、」
「気付いてるか? お前、さっきからずっと寂しそうな顔してる」
「……」
「じゃぁ、聞く権利があるのを尋ねるか。この前の返事、聞かせてくれ」
真剣な瞳がこちらを向いている。
藤原の言う「この前の返事」とは、水瀬さんのことをまだ好きなままでいいから付き合おうと告白してくれたもので、即答できずに少し待って貰っていた。
あれからずっと考えていたけれど、
「ごめん、藤原とは友達以上になれない」
いっぱい助けてもらったし、いっぱい慰めてくれた。
藤原といるのは楽しい。自然体でいれる。でも、だからってその優しさに甘えることはできない。
というかね、私、水瀬さんが好きなんだ。今日も明日も、ずっとずっと好きじゃなくなる日なんてきっと来ない。そう思うくらい好きなの。



