彩さんたちが今手掛けている企画の原案は私が作ったもので、いわば途中で取り上げられた形になっているけど、悔しさとか残念に思う気持ちは全くなくて。
むしろ、没になってしまっても仕方なかったものを形にして貰えたことに感謝している。
そりゃちょっとは参加したかったなって気持ちもあるけど、これを良い経験にして次の活かせたらなって。そう伝えると彩さんは目尻を拭うような仕草をした。
「貴司が聞いたら泣いて喜ぶわ」
「いやいや、はは」
もう水瀬さんの名前を出さないでいいですって。
上司なんだからそういうわけにはいかないんだろうけど、改めて社内恋愛の難しさを感じる。ただの片思いでもそうなんだから、付き合って別れたあとなんて気まずさしかないだろう。
そういった面では、水瀬さんに随分迷惑を掛けてしまった。
……柴咲さんとは上手くいったのかな。
ふと頭をよぎった思いは、顔に出ていたらしい。
「ロビーで暴れて紗夜ちゃんに怪我をさせた男なんだけど、柴咲さんの元婚約者だったって聞いたわよね」
「はい、ストーカー状態だったと」
あの日、柴咲さんの元婚約者は、彼女が来るのを待ち伏せしていたらしい。
受付ではあえて名乗らず、商談相手のフリをしていたのだというから執念深さを感じる。



